璃根です。
世界で一番好きなダンサー、シルヴィ・ギエムがとうとう今夜の舞台を最後に引退しました。
2015年は引退公演の世界ツアー。
そして12月31日の横浜で年末カウントダウン。モーリス・ベジャール振り付けの「ボレロ」で、彼女自身本当の最後の舞台。
ギエムファンであれば、ぜひともこの最後の舞台を観たがると思うのですが、私はあえてテレビで観ました。
なぜなら、彼女の「ボレロ」を何度と観ており、そして「ボレロ」はある程度の若さとエネルギッシュさが必要な踊り。
もう彼女の「最高」のボレロは、私は観終わりました。
私は最後の生舞台を、彼女が「今」最高に踊るべく選んだラストツアーの演目で締めくくりたかったのです。
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去年引退を知った時から寂しくて仕方なくて、しょうがありません。
本人曰く、50歳になる年に、とのことでした。
「100年に一人」と称されるバレエダンサーであるギエム。
一目写真を見るだけでその身体能力が計れそうなものですが、それだけでなく、彼女の舞台には魂の奥底を複雑に揺さぶることのできる深い精神性を持っていることも同じくらい特徴に挙げたいと思います。
まだまだ素晴らしい踊りを踊れそうなのに、そこで区切りをつけなくても、、とファンは思いますが、常にその時の完璧な舞台を見せてきたギエムが決めたこと。
全く遜色を見せていない時期に、トゥシューズで踊るのをきっぱりやめていた彼女です。
12月19日には私が観る最後の生舞台を観てきました。
最後のツアーでも、精力的に新しい作品を持ってきており、盛り沢山の内容に感動しました。
無敵のギエムでも衰えはあり、でも常に今自分がベストの状態で踊れるものをという選択も厳しくしてきていたと思います。
さらにその上で常に新しい挑戦も忘れない。
最後のツアーのギエムからは、とても深い神秘性を見ました。
そして、今夜のギエムの最後の演目『ボレロ』の序盤~中盤にも同じ事を感じました。
最後のギエムを生で見ようとは思いませんでした。
ギエムの『ボレロ』は何度も見たし、これはそもそもエネルギッシュさのいる作品で、ギエム自身も一度数年前に封印するつもりでいた作品。
(日本でボレロが人気すぎる余り、「最後のボレロ」日本縦断ツアーとも銘打たれました)
実は2001年に観たギエムのボレロが私の中で一番最強なのです。
しかし、2011年の東北の震災を機に、日本の為に封印を解いた。因みに震災がなければ「トゥシューズで踊るのが最後」のツアーになったはずです。
現にこのツアー以降、トゥシューズでの演目は踊っていません。
震災の年、多くの海外カンパニーが来日キャンセルする中、ギエムは「日本はとても好きな国。こんな時だから行かなくちゃ」と、
キャンセルするどころか、またチャリティの為に精力的にツアーを行いました。もちろん同年、福島でも公演をしております。
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引退しようとするギエムの最後をボレロで締める気はないなと思いました。
さらに引退ツアー公演の最後の演目は『Bye』
以前一度観ており、まだ引退が決まっていなかった頃に「ギエムも引退をいつにするのか考えてるのかな」とさみしく思ったのを思い出します。
そして私の中のギエムは、これをラストにしたかった。
でも上記の思いはあれど、やはりギエムで年末年始を迎えるのは格別な思い。
終盤に向かう中で、やはり衰えの見えてしまう部分はあったけれど、仙女のような不思議な神秘性に魅了されました。
クライマックスはことさら強く惹きつけられ、周りどころか世界中を魔法にかけたかのような、言葉にできない素晴らしさ。
もっと前からもっと沢山の彼女の舞台を観たかったと沢山の後悔がありますが、それでも出会った幸運に感謝したくなりました。
イリ・キリアンの『小さな死』をマッシモ・ムッルと踊るギエム。
『小さな死』は、久方ぶりのパートナーのマニュエル・ルグリと、深い紫の衣装で踊ったのも感動しました。
幾度もギエムのパートナーを踊ったムッル。来日公演でも何度と観ました。
近いところでは、マッツ・エックの「カルメン」でも観られ、粋に煙草を吸っていた様が思い出されます。
また、出待ちという名のサイン会でも、ギエムと並んで快くサインをしてもらった時に、
顔の彫りの深さと美しさに感動した記憶も。
ギエムを知るきっかけになったのは、雑誌FRaUで掲載されていたのを見てからです。
写真だけで惹きつけられて、舞台を観たくなるのは当然の流れ。
やっと観れた時には後悔しました。もっと早く観に行くべきだったと。
雑誌掲載 篠山紀信が撮ったギエム
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マリファント振り付けのツアーで、ギエムを前から二番目の席で観たこと、出待ちしてサインをもらったり、手作りのピンバッチをプレゼントして喜んでもらえて幸せだったり。
駅に向かう途中で偶然みかけて、写真と握手をお願いしてみたら、とても気さくに暖かな笑顔で応じてくれたこと。
電車に乗ろうとしたら、向かいの電車に旦那さんのジル・タピィと並んで座っていた様がかっこよかったこと。
もちろん観たどの公演も常に感動して、えもいわれぬ感覚・感情を与えられてきたこと。
沢山の優れた振り付け家の作品を知ることができたのも、ギエムのおかげです。
すでに超有名なギエムを「知らない」という振付家とどうしても一緒に仕事をしたくて、自ら何度も電話をかけてオファーしたという話もあります。
ギエムは、たんにチケットが捌きやすいであろうという観点でツアーの演目を決めることはしませんでした。
観客に優れた振付家を紹介したい、観客の素晴らしいものを見る目を養いたいという思いもあったそうです。
マドモワゼル・ノンと呼ばれ、歯に衣着せない物言いをすると言われますが、カーテンコールでの、いつでもはにかんだ少女のように可愛い笑顔にもう会えないのがとてもさみしい。
でも、私は彼女に沢山の宝をもらってきて、彼女に出会えたことは私のこれまでの変化の一部になっていると絶対思います。そんなファンはとても沢山いると思います。
沢山の感謝とこれからの幸運を彼女に願います。
ギエムに一目惚れした写真
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